６月８日から１０日前後の海軍による臼杵・津久見攻撃についての報告があるので掲げる。下記では振り仮名部分をその通りに表示できないので( )内に入れている。
CO9080860100「明治十年自四月至七月 密事探偵報告口供書類 征討陸軍事務所」防衛研究所蔵0328～0331
本月八日臼杵ノ賊攻撃ノ実况大畧御届仕置候後同日ハ陸兵モ近傍ニ攻メ寄セ昼夜對戦之處同九日早暁陸兵諸道ヨリ盛ニ進擊砲聲ハ遠近ニ響キ素ヨリ當艦ニ者兼テ陸地賊営ノ方向ヲ見計ラセ戦備致シ居候ニ付不絶攻擊折柄日進艦於テハ津久見佐伯等警邏ノ末入湾直ニ陸地間近ク進ミ一層進擊湾内両艦之回轉自由ナラス跡ヨリ回轉日進左ニ砲坐シ當艦右ニ出テ共ニ激發此ノ時陸兵ハ縦横奮戦ノ央殊ニ両艦ノ弾丸賊ノ背後ニ屡破烈シ賊四方ヨリ攻付ケラレ道路ニ放火シ逃走同日臼杵攻畧ニ至リ夫ヨリ日進艦長伊藤中佐ヨリ當艦ニハ津久見廻艦ノ都合協議ニ付同日午後四時頃ヨリ臼杵出艦同六時頃津久見廻舩(同所ハ臼杵ヨリ佐伯へ通路ナリ)逃走ノ賊ヲ横擊ス可クト豫メ通路ニ寄セ戦備之處同夜九字頃果シテ遠近ニ續々トシテ提燈ノモノ通行尤土人ヲ害スルノ愁アルヲ以テ容易ニ砲擊シガタク先ツ空砲ヲ發シ試ルニ提燈進也尚亦潜ニ燈ヲ消シ海岸ノ道ヲ走行（即チ佐伯通路ナリ)然ルニ暗夜ノ事ニテ人形分明ナラス此時野砲等ニテ砲擊ニ及ヒ同十日早朝臼杵ノ方ニ當リ砲聲相聞へ臼杵ノ山頂ヲ遥観スルニ数多ノ兵津久見ノ下ヲ指シ走セ降ル然ルニ官賊分明ナラス暫時砲擊ヲ見合セ候
半海岸近傍ニ走リ出テ一視スルニ果テ賊粧ナルヲ以テ直ニ大小銃ヲ放チ散々横擊弾丸一々賊ノ前後ニ破烈シ大ニ賊膽ヲ破リ激發数發ニシテ賊遂ニ潰走致シ候其後同午後四時頃漁舟陸地ヨリ當艦ニ漕寄セ臼杵ノ士族一名来リ賊状ヲ報知スルニ果シテ佐伯ヲ指シ逃走ナラント且海岸或ハ山上ニ賊死四名ヲ捨テ其他ノ手負ノモノハ運送シタル趣ニ御座候尤連日ノ攻擊ニハ候得共當艦ニハ死傷更ニ無之ク尚近傍潜伏ノ徒ヲ探索之半同九字頃陸軍兵津久見到着野嵜陸軍中佐ヨリ磯林陸中尉ヲ以テ戦状通知且佐伯進擊之義等協議ニ付尚日進艦ト一議ノ上不日佐伯攻擊可致積リニ御座候条此段實况大畧御届仕候也
浅間艦々長
十年六月十一日 海軍少佐緒方惟勝
海軍少将赤松則良殿
この内容はすでに海軍省「西南征討志」に反映されている。同夜九字頃果シテ遠近ニ續々トシテ提燈ノモノ通行尤土人ヲ害スルノ愁アルヲ以テ容易ニ砲擊シガタク先ツ空砲ヲ發シ試ルニ提燈進也尚亦潜ニ燈ヲ消シ海岸ノ道ヲ走行（即チ佐伯通路ナリ)然ルニ暗夜ノ事ニテ人形分明ナラス此時野砲等ニテ砲擊ニ及ヒに該当する「西南征討志」の部分を掲げる。土人とは土地の人の事である。淺間艦已ニ津久見ニ至リ本道ノ通路ニ近接シ錨ヲ投シテ待ツ須臾ニシテ燈火遠近ニ往来ス顧フニ賊ノ佐伯ニ逃走スルナラント試ニ大砲ヲ空發ス燈火忽チ四方ニ星散シ頃クアリ復タ燈ヲ蔽ヒ佐伯ニ向テ往ク本艦乃チ砲銃ヲ發シテ之ヲ擊ツ彼レ奔竄シテ終ニ見ヱス
青字部分からは9日の夜９時時点ですでに臼杵から津久見に向けて一部の薩軍が退却していたことが分かるが、この報告を参考にして執筆した「西南征討志」では時間が抜けている。陸軍の「征西戰記稿」でも9日段階に薩軍の一部が臼杵から津久見に退却していたことは記していない。
以上、どうでもいいようなことだが、検討してみた。
