西南戦争之記録

これは高橋信武が書いています。

川原内(かわらうち)峠の戦跡(姫岳の南東側、臼杵市と津久見市の境界)① ※追加します。

 1877年6月10日、臼杵の戦いが終わった後、薩軍津久見を通り抜けて佐伯に移動した。彼らの再来を警戒した官軍は津久見市警固屋南方の山から始まり場所不明の建岩から姫岳までに哨兵を配布している。薩軍臼杵から敗走した直後の動向について先に掲げた野津大佐の報告を部分的に再掲する。

爰ニ於テ左翼「ケゴヤ」前面ノ山ヨリ右翼建岩及ヒ姫嶽ニ警備線ヲ取り兵ヲ配布スルノ部署ヲ定メ堀江野﨑等ト左ノ通リ約定シ直チニ其地ヲ出発シ本日午后第五時牧口出張ノ本営ニ帰ル

 ケゴヤ津久見市街地南部にある。建岩は場所不明。

 その時の推定哨兵線を下図に赤破線で示す。前回の投稿でその際、官軍が築いたと考えられる姫岳の台場跡2基を紹介した。今回は姫岳の南東側にあって、臼杵津久見の境界をなす峠付近の戦跡を探してみた。地理的関係と地形からみていかにも要衝という場所であり、姫岳守備と同じ時期に官軍が守っていた筈である。峠には野津町・津久見市の間に県道が通過し、峠頂上部には姫岳を結ぶ登山路がある。野津町側から行ってみた。途中、獅子権現という鍾乳洞に猪の顎骨や鹿の骨を多数奉納しているところがあり、付近には旧石器時代の獣骨類が乱掘された岩陰遺跡もある。それらを以前見に行ったことがあるのを思い出しながら。

 峠の臼杵側にある川原内には十件近い民家があり、偶々路傍の家で石垣作りをしていた男の人二人に峠の名前を訊いたところ、名前はない、昔は隧道があったが今は切通の道になったとのことだった。川原内峠という名を期待したのだが、名前がないのなら仮称で川原内峠としておこう。石垣造りの目的は県道よりも上段にあった廃屋が崩壊したので重機で整理するための入口拡幅だった。

 

 

踏査

 まず峠道を津久見側に越えたところにすぐ広場があったので駐車して歩き始めた。

         川原内峠頂上の県道と左側の斜めに登る登山道(中央)

 登り口は標識などない(10月29日、写真の登山路の8m位南側・左側にある溝部分付近に標識があるのを見つけた。ここが正しい入山口らしいが、今は上の写真の所からも登るようだ)が姫岳登山道でもあり、歩き始めて初めの数分の緩い斜面のところ、登山路の左側で台場跡1基を発見。それは置いておいて直ぐに登山道を左に外れて県道の西側の森に登る。付近で一番高い標高501mの峰に矢印のように行ってみたが台場跡はなし。その後、登った経路を通らず(通れず)、緑線のように下った。一帯は同じような杉山でどこを通ったのか分かりにくい。森の中では磁石と注意力が必需品だ。

 その後、初めに見つけた台場跡1号の図化を開始し、次第に範囲を広げていった。

          巻き尺を1号台場跡土塁裾に置いて撮った。

 また、1号の背後に削り出した平地があるのでそれも図の範囲に入れようとしたが、時間内に終わりそうにないので周辺を見渡したところ、1号の南側に怪しいのを1基、北側には確実なのを1基確認。削り出し平場の中央に角礫が意味ありげに分布していた。これは後日図化したいが天幕でも撤去したような状態に並んで見えた。

遺物

 台場跡や平場がある一帯で明治4年以降に製作開始されたといわれる型紙刷り端反り碗(はぞりわん)2点、同皿1点を採集した。碗は同じ文様であり、同時に仕入れて使ったのであろう。採集地点を記録したのでそれは後日紹介したい。

           1号台場跡の下方で発見した茶碗 

                  同上の茶碗

 

        削り出した平場(右の溝状の物は登山道)と付近の茶碗

                   同上の茶碗

                 平場の下方で皿を発見

                   同上の皿

 上の写真は酒を注ぐ銚子だろうか。薄手の小型品である。

 採集した染付磁器は明治4年から製作開始され、西南戦争頃は盛んに流通した茶碗・皿である。碗2点の紋様が同一という事は同種の茶碗を大量に持ち込んだ、その一部が現地に転がっていたという事だろう。従って西南戦争時に官軍が使った遺物である可能性が考えられる。作業員が持ち込み、兵隊が使ったが、ここから移動するときに兵隊は茶碗など次の場所にもって行かなかったのだろう。戦後は地元民が拾ったりしたのだろうか。これらは登山道のすぐそばの地表に転がっていた。こんな山道の傍で144年間も誰にも拾われなかったのか!

 帰りに県道の反対側を調べてみたら(初めの地図で青色の線)、峠よりも南側にある尾根筋(水道施設跡の数十m峠寄り)で残り具合のいい台場跡1基を見つけた。結局川原内峠では台場跡4基を確認したことになる。今後何回か行って略図化したい。