いくつかの短冊や掛け軸、剥がしたものを紹介していこうと思う、何回かに分けて。読めない字があったので、またしても大津祐司さんのお世話になったことをまとめて付記しておきたい。
今回は野村忍介の短冊である。 西南戦争後、懲役10年の刑を受けた野村は東京の市ヶ谷監獄に投獄され、明治14年釈放されている。
司法の獄に在り介る頃
さ九ら炭起さ須とても冬な可良花の古﹅路盤長閑なり遣り 忍
(司法の獄に在りける頃 桜炭 起こさずとても 冬ながら 花の心は のどかなりけり)
桜炭とは千葉県佐倉地方の橡で作る良質の炭で、桜は当て字。在原業平の「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」は有名だから、野村もこの歌が心のどこかにあっただろう。これは獄中で詠んだ歌を、出所後に書いたのである。
右の短冊は忍介とあるが、野村ではなく月照のことである。末尾の舞は「む」と読む。彼には忍向という号もある。